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いのうえちず。
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文筆家もしくは、がちまやバカライター。座右の銘「愛と誠と肝心(ちむぐくる)」を小脇に抱え、人生街道をフルスロットルで驀進中。
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2008年06月01日

南洋の味

パンの実を、チャモロのカストロさんにお願いした。
私は2つもらった。

一つは、ヒサコさん・ミツコさんと食べようと決めていた。
サイパン高等女学校の寄宿舎で、お風呂当番の時に、
かまどでマキを焚いて焼いたというパンの実。
あの味が忘れられないって、ふたりともよく言う。

もう一つは、トシさんにあげようと決めていた。
一昨年の1月、取材に行ったら、お年玉をもらってしまい、
お返しは何をしたらいいか、ずっと心にひっかかっていた。
何か南洋のお土産が喜ばれるはず。
だけど、トシさんはとてもリッチなので、何でも持っているはずだし。
何がいいかな。。。幸い、今年は那覇から出て那覇に帰る旅を選んだので、
サイパンから直接那覇へと、日持ちのしないものも持ち帰れる。

そうだ!誰かに頼んで、パンの実を持って帰ろう。
そう思ってた。
夕方、那覇空港からトシさんちに電話をかけた。
「私、今年も南洋へ慰霊墓参に行ったんですよ。
今、那覇空港に着いたんですけど、トシさんにお土産をあげたくて。
20時前になりますが、届けるだけ届けに伺いたいんですが。。。
届けるだけ!本当に届けるだけですよ!気を使わないでください!!!」

姐御肌で、豪快で、沖縄のオバアでもあるトシさんは、
お寿司と豪華琉球ガラス入り古酒を用意して待っていた。
うーん、玄関先で失礼するつもりだったのになぁ。

「トシさんに、どうしても今日のうちにこれを届けたくて。パンの実です」

トシさんは、息を呑んで「パンの実!?」と言い、
「うれしいさぁ」と涙を流した。

「涙が出るほど、うれしいさぁ。
旅から帰って、疲れているのに持ってきてくれる、その気持ちがうれしいさぁ」

テニアンで生まれて、2歳になる年に沖縄へ引き揚げたトシさんの娘さんが、
「これがパンの実!?初めて見るわ~」
と興味深げに手にとった。

「おいもみたいな、また、かぼちゃみたいな味がするよ」
とトシさん。
「検疫を通すために、表面の色が変わる程度にサッと蒸してあるそうですから、
中はほとんど生の状態です。加熱してお召し上がりください」
と説明した。
サイパンから、果物や野菜のナマモノは持ち込めない。
ただし、火を通してあれば大丈夫。
中までしっかり火を通してあるかどうかまでは確認しないから、
実が崩れないように、カストロさんは上手にサッと蒸したものを用意してくれた。
パンの実は、加熱するとホクホクと柔らかくなるので、
飛行機にあずけたりしていると、つぶれたりしちゃうんだな。

「だー、仏壇に供えよう。
こういう人がパンの実を持ってきてくれたよーって、
お父さんにあげようね。あなたもウートートーしなさい」

トシさんに促されて、仏壇で手を合わせた。

「あなたは1本、私は3本よ」

トシさんちのお線香は、ヤマト式のバラになったお線香だった。
まず、火をつける。
軽く上へ掲げて、それから香炉に立てて、手を合わせた。

「いのうえちずさんが、南洋からパンの実を持ってきてくれましたよ。
アンショウさん、食べてください。なつかしい南洋の味ですよ。
私たちを見守ってください。また、いのうえちずさんの旅の無事を見守ってください」

ウートートー、アートートー。

「もう大丈夫。これで旅も無事にできるはずよ」

それからトシさんは、前には話さなかった、避難中のことを思い出したように話してくれた。

ガマの中にかくれてよ、お父さんが食べ物を探しに行ったわけ。
地雷を踏んでしまって、足を怪我して。着物を破って、包帯にして、
海の海水しかなかったから、それで消毒してからによ。
何日かしたらウジが湧いてきてよ。
「このワサワサーしているのは何かね」とお父さんが聞くわけさ。
ウジだと知ったらショックを受けるから、
「お父さん、蟻よ。こんな山の中だのに、蟻もいるさー」
と、言った。でも顔のところまでウジがきたから、
手でこうして取って、真っ暗だから見えないさ。指でつぶしてみたんだはず。
「これは蟻じゃないよ。ウジだよ」
と、言ってからに。
「自分はこうしてウジも湧くようになったから、もう消えるはず」
と言うから、
「あなたが消えたら、こどもたちをアレして(殺して)、私も消えます」
と言った。お父さんは
「女の浅知恵でそんなことをするなよー。こどもたちは一人でも二人でも、生かして、
また、自分なんかの骨を拾いに来てくれるはずだから。
こどもたちには絶対に手をかけるなよー」
と言ったから、
「絶対にこどもたちには手をかけないよ。今、そういうことを考えても、
どうしようもないから、考えないで、とにかく体を休めてください」
と言っても、また同じことの繰り返しさ。
「自分はもうもたない。長くない」と始まるわけ。
何回も同じことを話して、とにかく、こどもたちには手をかけるなよー、と言っていたよ。
自分が生きた証を、残したかったんだはず。

結局、トシさんたちは、救出に来た友人に説得される形で、ガマから出て投降した。
ご主人は、すぐに病院に収容されて、1ヶ月は面会謝絶だった。

そういう、ギリギリのところでのやり取り、その時の心理状態、
そういう状況の中で、しっかりと培われた絆。
その気持ちは、どれだけ取材しても、私には永遠にわからないだろう。
わかったつもりになっても、所詮、想像の域を出ないことだ。

そうか。日本全国の南洋帰りの組織である南洋協会が解散した時の、
「我々の気持ちは、若い世代にはわからない」
という宜野座会長のコメントは、そういうことであったか。



翌日、Mタンメーんちに行った時、トシさんちに行った話、
トシさんちで思ったことを話した。
「ああ、そりゃあいい孝行をしたね」
とMタンメーもうれしそうだった。

タンメーは、南洋から帰ってきて、軍作業もやったけど、
若いうちから独立して事業をしてきた。
会社を設立するとき、力になってくれたのは、
同じ南洋帰りの先輩たちや、仲間だったという。
話を聞いてみると、自営業をしている南洋帰りの人たちは、
お互いに出資しあったり、困った時は融資しあったり、
現在に至るまで、相当助け合ってきた経緯がある。
特に、Mタンメーはトシさんのご主人には大変お世話になり、
「アンショウさんがいなくては、今の自分はなかったはず」とまで言った。

「そういうギリギリの状況で培われた絆はね、
私には、本当にはわからないんじゃないかと思って」
「うん、言葉では言い表せないねぇ」
「それがわかっただけでも、昨日はすごく勉強になりました」
「それはよかった。でもね。。。」
タンメーが言いたいことは、私にはわかってる。
「わかってます。それを表現するのが、私の仕事です」
「だからよ。ちずがそれを言葉で言い表せたら、トシさんはもっと喜ぶはずよ」
「だからね」

皆さんが私に、いろんな話をしてくれるのは、
それを伝えていくのが私の仕事だと思えばこそ。
最大の恩返しは、書くことだ。

だけど、どうやって?

まだまだ、知らないことが多すぎる。




Posted by いのうえちず。 at 19:55│Comments(7)TrackBack(0)沖縄

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この記事へのコメント
なんか、じーんとしました。
いい仕事してるね、ちずさん。
誰にでもできることではありませんよ。
Posted by ルーファス at 2008年06月01日 22:44
いやーん、なにっ、これっ!!!
3回も繰り返さなくてもいいっつーの。
ごめんね、消してね。(-_-;)
Posted by ルーファス at 2008年06月01日 22:46
ちょっと泣きそうです。

本当にまさに“孝行”という言葉がぴったりときますね。

南洋帰りのひとたちにとっても、あるいは南洋に散っていったひとたちに対しても、ちずさんは“孝行娘”だはずよ~。
Posted by よーかいよーかい at 2008年06月02日 01:44
なんかさー、あのサイパンでのザワザワはさー、
きっとこの子が橋渡しの役目をしてくれるぞって、集まってきてたんじゃないかな?
言い残したいことがいっぱいあるのに、その言葉を拾ってくれる人が誰もいない・・・・・あ~来た、この子だわ、ようやく来てくれたって。
すごく、間に立って、皆の気持ちを昇天させてる気がする。
Posted by ちえこ at 2008年06月02日 09:03
>ルーファスさん
くどいコメントありがとう(爆笑)。
南洋に出発する直前、相方に言ったのは、
「魂の旅に出てくるぜ」
だけど行ってる間はドタバタしてて、
帰ってきてからかみしめている状態。
とほほ、だわ。まだまだ未熟よのう。
魂の修行は、さらに続くのだ。

>よーかいさん
いやー、肝心の実母や祖母には孝行してないからさー、
ちょっと後ろめたくもあるんだなー。

>ちえこちゃん
いいように解釈すればそうなるけど、
まだまだ道の途中ですからの。
自分勝手な使命感は持たないように、
気をつけてがんばります。
Posted by ちず at 2008年06月02日 10:37
いいんでない?「自分勝手な使命感」もたまには♪
「命」を「使」って生きている事を忘れがちな世の中だから。

トシさんの「その気持ちがうれしい」という言葉が最高の感謝の心。
いい人達に囲まれているのがよーくわかりまっせ。

がんばれ!おばちゃん!!(笑)
Posted by 親方 at 2008年06月02日 16:45
そんな私に、
「あなたは人に恵まれていない」
と言った神の声を聞く人っつうのがいてだねー。
言いたいことはわからんでもないが、
そういうあなたの神様は何様?と思った。
あー、いや、神様か。けけけけ。
Posted by ちず at 2008年06月02日 19:33